彼女と結婚しようとしている。
付き合って五年になる。大きな喧嘩はほとんどないし、一緒にいて嫌なこともない。むしろ、俺が仕事で余裕をなくしたときも、家族のことで面倒が起きたときも、彼女は変に正論を振りかざさず、必要な距離でそばにいてくれた。俺のだめなところを知っていて、それでも尊重してくれる。そんな人はたぶん滅多にいない。
思い出もある。旅行に行ったこと、どうでもいい店を開拓したこと、部屋でだらだら映画を見たこと。彼女が笑っていると安心するし、困っていたら助けたいと思う。愛情がないわけではない。
でも、好きかと聞かれると、胸を張って好きだとは言えない。昔、どうしようもなく好きだった人に抱いたような気持ちとは違う。彼女の顔を見るたびに、もっと良い人がいたのではないか、と考えてしまう。もっと自分の好みに近い人、もっと自然に夢中になれる人が、どこかにいたのではないかと。
彼女は結婚したがっている。俺も年齢的に、いつまでも曖昧なままではいられないと思う。彼女の二十代のかなりの時間を俺が使わせてしまった。今さら別れて、彼女にまた一から相手を探させるのはあまりに無責任な気がする。
理性で考えれば結婚するべきなんだと思う。性格も価値観も大きくはずれていない。生活を一緒にする相手としては、かなり相性がいい。ずっとレスではあるけれど、そのことも含めて、互いに決定的な不満として扱ってこなかった。
それでも、結婚の話を具体的に進めようとすると手が止まる。彼女のために結婚する、五年付き合った責任を取るために結婚する、という理由ばかりが先に立つ。自分が本当に選びたいから結婚する、という言葉が出てこない。
別れたら後悔する気もする。結婚しても、もっと良い人という幻を引きずる気もする。彼女を大切にしたいのは本当なのに、このまま夫になっていいのかが分からない。