今日は結婚記念日だった。特別な店を予約するほどでもないので、帰りに駅前の寿司屋で好きなものを少しずつ買ってきた。妻はイカ、俺はサーモンを多めに取った。家で皿に並べて、缶ビールを開けた。

俺は四十三、妻は三十九で結婚した。付き合い始めてから二年くらいだったと思う。どちらも、若いころに思い描いていたような結婚とはだいぶ違うところにいた。俺は仕事ばかりして婚期らしいものを逃し、妻も一人で暮らすことに慣れすぎていた。紹介で会って、最初からときめいたわけではない。

ただ、話は合った。嫌いな食べ物が似ていて、テレビのうるさい演出を嫌がるところも同じだった。店員に横柄な人の話をすると二人とも同じ顔になる。撮り溜めたドラマを見て、こいつは来週裏切るとか、いや実はいい人だとか言い合う。その時間が案外楽しかった。

二人合わせて年収は八百万くらい。贅沢はできないが、節約すれば何とかなる。子供については、結婚前に作らない方向で話した。年齢や金のことだけでなく、二人とも自分の静かな時間がかなり必要な人間だからだ。たまに親戚や職場で聞かれて面倒ではあるが、家に帰れば同じ結論を知っている相手がいる。

セックスはほとんどしない。妻の顔が好みど真ん中というわけでもないし、たぶん妻もそうだろう。でも、ソファで隣に座っているときに胸や尻をちょっと触らせてもらうくらいのじゃれ合いはある。嫌がるときは嫌だと言うし、俺もそこでやめる。その距離感がちょうどいい。

結婚前は、こんな条件で一緒になるのは余り物同士だからだと思っていた。今でも冗談でそう言う。けれど、風邪で寝込んだときに薬とゼリーを買ってきてくれる人がいること、仕事で嫌なことがあった日に黙ってイカの寿司を一つよけておいてくれる人がいることは、余り物のおまけにしては大きすぎる。

食後、妻が線香花火を買ってきたと言い出した。ベランダでやるには寒いし狭いので、結局は箱を眺めただけだった。それでも笑った。来年やればいい、と妻が言った。たぶん来年も、似たような寿司を食べて、同じドラマの続きに文句を言っていると思う。そういうのが続くなら、悪くない結婚だと思う。