事件後しばらくして、投稿サイトか掲示板の転載かで、青葉被告のものだとされる小説を読んだ記憶がある。今は元ページを確認できないし、細部はかなり曖昧だ。なのでこれは作品の正確な要約というより、「読んだときに何が印象に残ったか」のメモとして書く。題名、掲載時期、文章の順番などは自信がない。

まず主人公の名前が、作者本人を連想させる読みだった。主人公は平凡な境遇から始まるというより、最初から何か特別な才能や血筋や過去を持っている人物として扱われていた気がする。周囲がその重要さをすぐ理解し、主人公もそれをあまり疑わない。本人が自分を大物だと言うというより、物語全体が当然の前提としてそう置いている感じだった。

舞台は現代日本風の場所だったはずなのに、少し進むと異世界、秘密組織、軍事施設、学校、芸能界のような要素が同じ画面に並ぶ。どれか一つを中心に設定が組まれているのではなく、そのとき書きたい場面に合わせて背景が差し替わる。昨日まで普通の学生だった人物が、次の段落では世界的な任務を背負う立場になっていたような、そんな唐突さがあった。

主人公は戦闘にも強く、特殊な能力や装備も持っていた。スパイか工作員のような肩書きだった記憶もある。ただし秘密の存在であるはずなのに、会う人会う人が主人公の名声や実力を知っている。敵も味方も主人公を警戒したり敬ったりする。世界一の秘密任務を担う人物が、ほとんど秘密ではない状態で活動しているように見えた。

印象的だったのは、既存のアニメやゲームを思わせるキャラクター、固有の役割、世界観が、説明なく入り込んでくるところだった。明確にどの作品の誰、とここで断定するつもりはないが、「どこかで見た受付役」「有名な学園ものにいそうな人物」「ファンタジー作品の職業や種族」などが、借り物の舞台装置のように並んでいた。作者の頭の中では一つの大きな世界としてつながっていたのかもしれない。

新しい人物の登場も独特だった。場面転換の合図もなく、知らない名前の人物が会話に混ざる。その人物には長い経歴や能力が設定されているらしく、本人だけは当然のように自分の過去を語る。しかし読んでいる側には、なぜ今ここにいるのか、誰とどういう関係なのかが示されない。紹介ではなく、作者の脳内にある人物名簿をそのまま開かれた感じがした。

会話は、筋を進めるためというより、キャラクターに言わせたい台詞を先に置いているようだった。威圧的な決め台詞、仲間を励ます台詞、悲惨な過去を打ち明ける台詞、恋愛的なやりとりが順番に現れる。けれど、その前後の出来事とのつながりが薄いので、感情の盛り上がりを受け止める足場がない。大きな事件が起きても、次の場面では別の大きな設定が始まる。

主人公の周囲には女性キャラクターが多く、好意、尊敬、心配、保護欲のような感情を向けられていた覚えがある。一方で主人公は傷ついた過去を抱え、理解されず、しかし本当は誰よりも有能で優しい人物として描かれていた。創作では珍しい願望ではない。ただ、この作品ではそれを支える日常描写や関係の積み重ねが少なく、設定の宣言が先に立っていた。

敵対者にも強大な組織や陰謀が与えられるが、敵が何を望んでいるのかより、主人公がどれほど特別な危機に置かれているかを示すための存在に見えた。国家規模、世界規模、宇宙規模の話が急に出てきた気もする。主人公の一人の人生の話と、巨大な戦争や秘密結社の話が、整理されないまま同居していた。

文章については、誤字や脱字、助詞の抜け、主語の入れ替わりがかなりあった。人物名や呼称が揺れる箇所もあったと思う。ただ、ただ短く書けない人というより、頭に浮かぶ情報が多すぎて、読者の理解の順番まで整えられないまま出しているように見えた。設定の量だけなら、連載数本分くらいありそうだった。

だから読んでいて「何も考えていない」とは感じなかった。むしろ逆で、本人の中には人物、能力、所属、過去、恋愛、戦闘、因縁のような断片が大量にあって、それぞれに強い思い入れがあるのだろうと思った。ただし、それを小説にするには削ること、順番を決めること、読者の知らない情報を少しずつ渡すことが必要になる。その工程がほとんど見えなかった。

たとえば最初に主人公が困っている小さな出来事を置き、そこから友人や敵を一人ずつ出し、最後に大きな秘密へ届く、という形なら読み手もついていける。あの小説は逆で、最初から最終回付近の設定資料集を渡され、その場その場で好きなページだけ朗読されるようだった。書きたい場面の熱量はあるのに、場面同士を結ぶ道がない。

なお、この拙さを事件の原因のように語るつもりはない。小説が下手な人、設定を盛りすぎる人、二次創作的な要素を混ぜる人はいくらでもいるし、それ自体は他者への加害を意味しない。作品から分かるのは、せいぜい書き手が何に憧れ、どんな主人公像を好み、どういう場面を書きたがったかくらいだと思う。犯罪の説明に作品を使いすぎるのは危うい。

それでも、剽窃されたという主張との並びで読むと、妙に切実ではあった。本人にとっては借り物やありふれた型ではなく、苦心して組み立てた自分だけの世界だったのかもしれない。主人公の苦難や逆転、周囲からの承認は、単なる設定以上に大事だったのだろう。外から見れば雑然としていても、書いた本人には一つ一つが重要だった可能性はある。

ただ、それは被害を受けた人たちへの責任を軽くする理由にはならないし、作品を嘲笑することで事件を理解した気になるのも違う。自分が覚えているのは、完成した物語というより、誰かが「こういう自分になりたい」「こういうふうに認められたい」と思って集めた断片だった。その断片が、読者に渡る形へ整理されないまま、雑多に残っていたという印象だけが強い。