「はてなのおじさんって山賊目指してるの?」という話を見かけた。ずいぶんデカい釣り針だな、と思ったけれど、案の定、ブックマークには山賊が増殖していた。斧だのモヒカンだの、海賊王だの山賊王だの、しまいには山賊焼きの話まで出てくる。こういう、どうでもいい比喩にみんなで乗っかっていく感じは、嫌いではない。毎日ケンカもするけど、なかよしこよしの山賊たち、という歌が頭の中で無限ループしている。

元の話で挙げられていたのは、清潔感を拒否する、すね毛を処理しない、オシャレをしない、女子トイレの拡大に反対する、といった特徴らしい。でも、それを全部満たす人間など、そうそういないだろう。風呂にも入るし歯も磨くけれど、服装や髪型が好みではないというだけで「清潔感がない」と言われる人もいる。清潔感という言葉は便利すぎて、言い出した側がいくらでもゴールポストを動かせる。衛生の話と、顔立ちや体型や年齢への好悪が、同じ袋に入れられている。

一方で、実際に風呂に入らず、歯も磨かず、臭い服を着たまま人の隣に来るのは、さすがに別の話だと思う。身だしなみは他人への敬意でもあるし、公衆衛生やTPOを無視していい理由にはならない。そこを「ありのままの自分を受け入れろ」と一括りにしてしまうと、話が浅くなる。清潔であることと、イケメンらしい見た目を要求されることは、同じではない。

女子トイレの面積や個室の数についても、男性側の事情を語ること自体が悪いわけではない。男子小便器だって、隣に人が立つ不快さを我慢して使っている人がいる。ただ、女性が構造上使いにくい設備を増やしたいと言っているときに、「男だって我慢している」とだけ返しても、解決にはならない。自分の不快さを説明することと、相手の困りごとをなかったことにすることは違う。

だから、はてなのおじさん全員が山賊を目指している、という話には同意しない。そもそも、はてなのおじさんは一枚岩ではない。小綺麗な人もいれば、ボディバッグに文庫本を入れて歩く人もいる。酒も煙草も嫌いな独居老人風の人もいるし、脱毛して風呂に二回入る人もいる。山に登る体力もなく、武装する蛮勇もない、ただパソコンの前で長文を書いているだけの人だっている。

むしろ目指しているのは、山賊というより「自分は他人より物事が見えている」と思われたいおじさんなのかもしれない。お気持ち一本槍で誰かを攻撃し、反論されると差別だ、被害者だ、と言い換える。反対に、見た目を笑われた側も、何を言っても許されるわけではないと怒る。どちらも相手を一つの属性に押し込めて、勝手に作った虚像と戦っている。

結局、山賊を目指そうが、モヒカン族になろうが、海賊になろうが、その人の勝手だ。ただ、他人に選ばれたいなら、求愛行動や身だしなみを一切拒否したまま「なぜ選ばれない」と怒るのは難しい。逆に、他人の身体的特徴を汚いものとして扱っていいわけでもない。風呂には入れ。臭い服は捨てろ。すね毛は好きにしろ。女子トイレも男子トイレも、使う人が少しでも困らないように増やせばいい。

この程度の話を、山賊だの姫おじだのと呼びながら、今日もブックマーカーたちは斧を振り回している。たぶん、そこが一番はてならしい。