「愛知が首都になるん?」という話を見かけた。いや、首都になるというより、東京の機能が止まったときに代わりを務める副首都の候補として愛知の名前が出ている、ということらしい。そこを最初から勘違いしていた。名古屋が東京に取って代わるとか、愛知県が名古屋都になるとか、そういう話ではない。たぶん。
ただ、災害や戦争、サイバー攻撃などで東京が使えなくなった場合を考えるなら、バックアップはあったほうがいい。日本は地震も台風も豪雨もあるし、首都機能を一か所に集めすぎている。東京が止まったら国全体が止まる、という状態は、冗長性という言葉から一番遠い。副首都を一つ決めて終わりではなく、複数の都市に省庁や施設を分散させるほうが自然に思える。
候補として大阪が挙がるのは分かる。人口も都市機能も交通網もそろっていて、既存のものを使えるぶん、整備費も時間も少なくて済みそうだ。東京との距離も遠すぎない。一方で、南海トラフを考えると、東京・名古屋・大阪をまとめて同じようなリスクにさらすことにならないか、という心配もある。副首都が本当にバックアップなら、東京と同時に被災しやすい場所だけでいいのか、という疑問は残る。
愛知にも強みはある。東海道新幹線、道路、空港、港湾、製造業の集積。東京と大阪の間にあって、全国から人や物を集めるには便利だろう。名古屋だけでなく、豊田、岡崎、安城、豊橋まで含めれば、用地や機能を分散できるという見方もできる。新幹線駅のある地域を活用する案なら、都市の中心に全部を詰め込まずに済むかもしれない。
でも、すでに十分に栄えている地域へさらに政府機能を集めたら、過密を別の場所に作るだけではないか。暑さも気になる。夏の名古屋はかなり暑い。気候変動が進むなら、災害だけでなく、電力や水、熱中症への対応まで考えた立地にしないといけない。都市部を避けて、岡山、長野、岐阜、滋賀、松代、あるいは札幌や仙台、福岡などを候補にする意見が出るのも理解できる。
ただ、田舎なら安全という単純な話でもない。職員や議員、報道、各国の関係者を受け入れる住宅、病院、通信、空港、鉄道、警備、学校まで必要になる。東京との連絡が困難な場所では、バックアップとして機能しない。交通網やインフラは決定後に整備すればいいという意見もあるけれど、危機が起きてから作るわけにはいかないし、平時から使われていなければ、いざというとき動かない。
だから「愛知一択」「大阪一択」と決めるより、役割を分けたほうがいいと思う。内閣や国会の代替機能、各省庁の本拠地、データセンター、備蓄、通信拠点を別々の場所に置く。省庁ごとに岡山、北海道、福岡、京都、長崎などへ分散する案も、冗談に見えて実は筋がいい。定期的に訓練し、平時にも職員が働き、地域経済に金が循環する仕組みにする。看板だけの「副首都」では意味がない。
首都を何年かごとに持ち回りにする案や、野球で決める案、移動都市にする案まで出ていて、コメント欄はずいぶん楽しそうだった。「南海トラフグ地震」という誤変換が何度も拾われていたのも笑った。名古屋が首都になったら公用語が名古屋弁になる、という冗談もある。名古屋はええよ、やっとかめ、という歌が本当に現実になるなら、それはそれで見てみたい。
とはいえ、名前や肩書きを作ることが目的になったら困る。東京が何かあったとき、誰がどこで何を決め、どう国民へ伝えるのか。道路や新幹線が止まった場合はどうするのか。電力や通信が失われた場合、別の地域から復旧を指揮できるのか。そこまで具体的に決めて、何度も訓練して、初めて副首都と呼べる。
愛知が首都になるかどうかより、東京に集中した機能をどう分散するかが大事だ。大阪でも愛知でも岡山でも、複数でもいい。いっそ首都という称号をなくして、全国に機能を配る方法だってある。議論が続くなら、地元の期待やイメージだけでなく、災害リスク、交通、土地、受け入れ能力、費用、平時の効果を並べて比べてほしい。
そのうえで愛知が選ばれるなら、名古屋だけを膨らませるのではなく、県内外に分散した「働くバックアップ」にしてほしい。そうでなければ、東京の代わりに名古屋へ集中するだけだ。副首都は一つの都市を飾る称号ではなく、国全体が止まらないための仕組みなのだから。