諸葛孔明を連れてこい、と頼まれたので、朝から三顧の礼を始めた。まず一回目は本人の家の前を散歩で通過。二回目は近所のラーメン屋で「軍師募集中」と書いた紙を見せた。三回目にいたっては、もう面倒になってインターホンを押し、「すみません、孔明さんいますか」と聞いた。

出てきたのは、よく似た別人だった。本人いわく、字は迂闊、軍略はだいたい雰囲気、泣いて馬謖を斬るつもりが、馬謖に謝って帰すタイプらしい。名前を聞くと「迂闊孔明です」と胸を張った。自信満々なのがいちばん怖い。

さっそく作戦会議を開く。敵が北から来ると伝えると、彼は地図を逆さに置き、「これは南ですね」と言った。矢が足りないので藁船を用意しようとしたら、船を忘れて藁だけ持ってきた。火計の日程も、敵に先に知らせるという親切ぶりである。

それでも本人は「だいじょうぶ、最後には勝ちます」と言う。根拠を尋ねると、「今気づいたんですが、勝つまで負けなければいいんです」とのこと。なるほど、と思いかけた自分も迂闊だった。

結局、軍師としては採用せず、宴会の席に置いておくことにした。酒を注ぐ係なら、たぶん誰も斬られない。帰り際、彼は振り返って言った。「次はちゃんとした孔明を連れてきます」。その言葉を信じて、四顧目を待っている。