妻に言いたいことがある。正確には、もう何度も言ったけれど、言っても変わらないので言うのをやめたことだ。

妻はたぶん自分のことを「ちょっとズボラ」くらいに思っている。俺も結婚前はそう思っていた。部屋の片付けが苦手、洗濯物を畳まない、買い置きを忘れる。その程度なら、気になるほうがやればいいと思っていたし、実際、俺は細かいほうだから何とかなると思った。

でも、一緒に暮らしてみると、ズボラという言葉では足りなかった。

トイレットペーパーがなくなっても補充しない。予備を置いておいても、最後の一個を使い切った芯だけが床に転がっている。ティッシュを流すなと言っても流す。詰まるからやめてくれと言うと、「今まで詰まったことない」と返ってくる。

食器は水で軽く流して終わり。油がついていても気にしない。洗剤を使っても、スポンジを洗剤まみれのまま置く。食洗機があるのに、「入れるのが面倒」と手で適当に洗う。翌朝、皿に食べ物の跡が残っていることもある。

ハンドソープや食器用洗剤が少なくなると、水を入れて薄める。やめてくれと言うと、「まだ使えるじゃん」。薄めたものは泡立ちも悪いし、容器の中で変になっている。それでも使い続ける。

生ゴミには、なぜか洗剤を直接かける。消臭のつもりらしい。肉や魚の汁がついた袋を台所の隅に置いたままにして、夏場に臭いが出ても窓を開けるだけ。冷蔵庫の奥から、いつ買ったかわからない野菜が出てくる。カビが生えていても、「そこだけ取れば食べられる」と言う。

消費期限もほとんど見ない。俺が捨てようとすると、「死にゃせんよ」と笑う。料理を任せたら、肉の期限が切れていても普通に焼く。火を通せば大丈夫という考えなのだろうが、俺はその料理を食べる気になれない。子どもができたらどうするのかと思う。

掃除も当然しない。本人は汚いものが嫌いで、外では手を何度も洗うし、床に落ちたものを触るのも嫌がる。なのに家の床に落ちている髪の毛や食べかすは放置する。潔癖とズボラは両立するらしい。

生理の汚れがついたものを、そのまま洗濯機に入れられたこともある。風呂の排水口も、詰まって水が流れなくなるまで掃除しない。言えば「気づいたならやればいい」と言われる。気づいたほうがやる、というのはわかる。でも、俺が全部やるなら、妻は何を担当しているのかがわからない。

フライパンを金属の箸で叩く。テフロンが傷つくからやめてと言っても、「そんな細かいこと気にするな」。洗濯物はポケットを確認せずに回し、紙くずを衣類中に散らす。買い物では必要なものを忘れるのに、安いからと野菜を大量に買う。冷蔵庫に入らない分を台所に積み、腐らせる。

俺が注意すると、妻はその場では「わかった」と言う。でも翌日には元通り。仕組みを作ろうとして、ゴミ袋を台所に置き、予備のトイレットペーパーを目につく場所に置き、掃除の分担を書いた紙を貼った。最初の数日は守る。すぐに紙そのものが邪魔だと言われて剥がされた。

別に完璧な家事をしてほしいわけではない。俺だって散らかすし、掃除をさぼる日もある。ただ、食べ物と衛生のことだけは最低限やってほしい。それを言い続ける自分が、だんだん嫌になってきた。

結婚前に気づかなかったのか、と言われると思う。気づかなかった。外食の後に店員へきちんと礼を言うし、仕事もできる。家でどう暮らしているかなんて、付き合っている間はわからなかった。同棲を一年くらいしていれば、たぶん気づけたのだろう。

離婚したほうがいいのかもしれない。けれど、妻には妻の普通があり、俺には俺の普通があるだけなのかもしれない、とも思う。俺が神経質すぎるのかもしれない。そう考えて我慢してきたが、腐ったものを食べさせられる可能性があるところまで来ると、もう「価値観の違い」では済まない気がする。

妻に言いたいことは、たくさんある。でも、言っても直らないことを並べるより、俺がこれからどうするかを決めるほうが先なのだと思う。