最近、Web小説のランキングを眺めていて、妙に目につく題材がある。

現代のおっさんが、昭和や平成の過去に戻って人生をやり直す話だ。いわゆる異世界転生ではなく、戻る先は自分が知っている現実の日本。しかも戦国時代や太平洋戦争ではなく、高度成長期からバブル、あるいは就職氷河期の少し前後あたり。主人公はだいたい中年で、何らかの事情で人生をやり直すことになる。

今回はその中から、最近見かけたものを八つほど拾ってみた。

一つ目は、昭和の日本に戻り、子供の頃から知識を積み上げていくタイプ。懐かしいテレビ番組やゲーム、家電、駄菓子などを楽しみながら、前世ではできなかった努力をやり直していく。未来を知っているので、株や土地に手を出したり、流行する商品を先回りして作ったりする。

二つ目は、高度成長期からバブル期を舞台に、会社員として出世していく話。前世では中間管理職のまま終わった主人公が、過去の失敗を避け、社内政治を勝ち抜き、会社そのものをより良い方向へ導こうとする。個人の成功だけでなく、日本経済をどうするかという話に広がることもある。

三つ目は、バブル崩壊や金融危機を回避しようとする経済もの。主人公だけが先の出来事を知っているため、銀行や企業の破綻を防ごうとする。うまくいけば多くの人を救える一方、歴史を少し変えたことで別の問題が発生する。現実の経済や企業の仕組みをどこまで説明できるかが読みどころだ。

四つ目は、半導体やコンピューター技術に関わる研究者が、過去の日本で技術開発をやり直すもの。未来の完成品をそのまま出すのではなく、当時の材料や設備、人材の範囲で少しずつ前進していく。これは単なる「未来知識で無双」というより、実際の技術史に沿って積み上げるタイプなので、詳しい人が書いているとかなり面白い。

五つ目は、高校野球を題材にした人生やり直しもの。前世で果たせなかった甲子園出場を目指し、才能のある選手として努力する。野球部の人間関係や指導者との衝突、当時の社会の空気も描かれる。パワプロをやっていた人間なら、一度くらいは自分が怪物選手になってみたいと思うので、願望充足としてはわかりやすい。

六つ目は、昭和の地方都市や商店街を舞台にした日常・地域再生もの。主人公が昔の知識を利用して店を繁盛させたり、衰退する町を立て直したりする。大事件を防ぐのではなく、家族や近所の人たちとの関係をやり直す話で、過去改変というより「もう一度、あの頃を生きる」作品に近い。

七つ目は、戦後から昭和後期にかけての日本で、社会の大きな流れを変えようとするもの。政治や産業、国際関係に関わり、歴史改変の規模が大きい。戦国時代や第二次世界大戦を扱う仮想戦記は昔からあったが、最近はテーマが少し後ろ、あるいは現在に近い時代へ移っている印象がある。

八つ目は、過去に戻った主人公が、結局は大それたことをせず、自分の人生だけを立て直していく話。昔の家族にもう一度会い、逃してしまった進学や恋愛の機会をやり直し、前世では選ばなかった仕事に就く。歴史を変えるというより、失われた時間を取り戻したいという感情が中心になる。

こうして並べると、共通しているのは「おっさんが過去へ戻る」ことだ。異世界で王子や賢者になるのではなく、自分が実際に知っている日本で、今度こそ上手くやる。若い頃に戻って勉強し直し、投資し、会社を起こし、家族を守り、社会の危機を防ぐ。

なろう系の読者層が高齢化したという話もあるが、実際に読者が中年ばかりなのか、書き手が年を取っただけなのかはよく分からない。昔からWeb小説を書いていた人が、今の自分の年齢に合わせて題材を変えただけという可能性もある。

ただ、現実の日本を舞台にすると、異世界ものよりも調べることが多い。会社や技術、政治、当時の生活用品、テレビや音楽の流行など、少し間違えるだけで読者に突っ込まれる。未来の知識があるからといって、個人の努力で歴史が簡単に変わるわけでもない。何を知っていて、何を知らないのか、どこまで都合よく成功できるのかを決める必要がある。

それでもこのジャンルが読まれるのは、単純に「やり直したい」という願望が分かりやすいからだろう。失われた三十年を取り戻したい。あの時に別の選択をしたかった。若い頃にもっと勉強しておけばよかった。就職や結婚で失敗しなければよかった。そういう後悔を、物語の中で主人公に解消してもらう。

もちろん、昭和を知っている世代からすると、昭和レトロをきれいな思い出だけで描かれると微妙な気持ちになる。自由が今より少なかった部分もあるし、当時の不便さや理不尽さもあった。過去に戻りたいかと聞かれたら、インターネット以前の時代には戻りたくないという人も多いだろう。

だからこそ、ただの懐古ではなく、当時の現実をどこまで描けるかが大事なのだと思う。未来を知っている主人公が無双するだけでなく、知識があっても変えられないもの、変えた結果として生じる別の問題まで扱えれば、単なるおっさん向けの慰め以上の作品になる。

とはいえ、読者としては難しいことを考えず、夢と希望を振りまくおっさんを眺めたい時もある。次は、もっと大風呂敷を広げて、歴史そのものをひっくり返すくらいの作品が出てきてもいい。過去に戻って出世するだけでなく、半導体でも人工知能でも何でもいいから、誰も想像しなかった未来を作ってほしい。

この手の作品が本当に最新流行なのかは、ランキングを詳しく見ないと分からない。ただ、少なくとも今のWeb小説には、過去へ戻って人生や日本をやり直したいという気分が、かなり露骨に表れているようには見える。