古いビデオデッキを、採用試験に使っている会社があるらしい。といっても、映像を見せて感想を書かせるとか、昔の野球中継を楽しめるかを見るとかではない。説明書と本体を渡して、時刻を合わせ、指定された番組を予約録画する。時間制限は設けず、説明書を読んで、書いてある通りに操作できるかを確かめるのだという。
一見すると、ずいぶん意地の悪い試験に思える。いまどきビデオデッキを触ったことのない人は珍しくないし、録画予約以前に、これは何をする機械なのか、テープはどちら向きに入れるのか、「巻き戻し」とは何なのか、というところから始まる。地デジしか知らない世代なら、アンテナ線や外部入力でさらに迷うだろう。昔使ったことがある人だけが有利になるなら、能力試験というより昭和の生活経験試験になってしまう。
ただ、会社が見ているのはビデオの知識ではないらしい。知らない機械を前にして、まず説明書を読むか。必要な箇所を探せるか。手順を飛ばさず、分からないことを勝手な思い込みで補わず、作業の結果を確認しようとするか。そう考えると、意外に実務的だ。産業用の装置や社内システムでは、何百ページもあるマニュアルを読み、トラブルシューティングの項目をたどりながら復旧する場面がある。誰かに聞けば済む仕事ばかりではない。
実際、説明書を渡しても読まない人はいる。読んでも注意書きを飛ばす人、手順の途中で自己流に変える人、できていないのに「できました」と言う人もいる。そういう傾向を早めに知るには、SPIのような問題より分かりやすい場合もあるだろう。機械音痴だから即不採用という話ではなく、困ったときにどう考え、どこまで自分で検証できるかを見る課題なら、機械に強い人と別の適性も拾える。
一方で、これが広まれば、受験者は中古デッキを買って自主練習する。口コミサイトに手順やコツが書かれ、試験はすぐ対策される。そもそも家にあった人、親の操作を見て育った人、Gコード予約を使っていた人に有利だ。古い機械はテープのローラーが劣化していて、録画どころかテープが絡まる危険もある。試験の目的が「説明書を読んで実行すること」なら、実際に放送を録画できるかまで求める必要はない。
それでも、課題としては面白い。ビデオデッキでなくても、初見のボードゲーム、組み立てキット、少し古い炊飯器などで代用できる。大切なのは、流行の言葉で自走力を測ることではなく、知らないものを前にしたとき、読んで、試して、記録し、必要なら確認する姿勢を見ることだ。
便利な機械ほど、考えなくても使えるように作られている。そのぶん、説明書から手順を再構成する機会は減った。だからこそ、砂嵐の画面を前にして途方に暮れるか、説明書を開くか。採用試験として万能ではないにせよ、その差が仕事に出る職場なら、古いビデオデッキにもまだ役目はあるのかもしれない。