祖父母も結婚していて、父も母も結婚していて、その二人から生まれた俺が結婚できないの、冷静に考えるとおかしくない?

いや、結婚できる遺伝子みたいなものがあるのかと思っていた。少なくとも「結婚できた人間」の子供ではあるわけで、俺も同じように結婚できるはずだ、と。数学的ではない帰納法なのはわかっている。

もちろん、親と俺では時代が違う。昔は結婚していないと一人前扱いされなかったし、親戚や近所の人や職場のおばさんが、本人の意思に関係なく相手を探してきて、見合いを組んで、半ば強引にくっつけていた。結婚しない自由がなかった代わりに、結婚するための仕組みはあった。

父母の世代は、会社や地域が結婚相談所みたいな役割をしていたのだと思う。職場結婚も普通だったし、独身でいると周囲が放っておかなかった。今なら「余計なお世話」で済むことが、当時は社会の標準だった。

その結果、親が結婚できたからといって、親が特別にモテたとか、恋愛能力が高かったとは限らない。うちの両親だって、仲がいいのか悪いのかよくわからない。長年一緒にいるが、しょっちゅう喧嘩している。あれを見て育った俺が、結婚に夢を持てと言われても難しい。

母に聞いたことはない。どうやって父と出会ったのか、なぜ結婚しようと思ったのか。聞けば何か人生のヒントが出てくるかもしれないが、同時にパンドラの箱を開けることになりそうで怖い。

今は自由恋愛が基本で、結婚したい人同士が自分で出会って、自分で選ばないといけない。昔なら誰かが拾ってくれたような、俺みたいな鈍くさい人間も、自分から動いて、魅力を伝えて、相手に選ばれなければならない。年収、清潔感、積極性、コミュニケーション能力。どれか一つではなく、全部を求められている気がする。

しかも、結婚しなくても生活はできる。独身者への圧力は減ったし、女性も無理に結婚して生活を誰かに依存する必要がなくなった。親の結婚生活を見て「こうはなりたくない」と思った人も多いだろう。結婚しない選択が可能になったことで、結婚したい人だけが努力するゲームになった。

だから、俺が結婚できないのは、結婚できる遺伝子がないからではなく、時代と環境が変わったからなのだろう。親の世代では社会の圧力が二人を結びつけ、今は本人の意思と能力と運に任されている。

とはいえ、「時代が悪い」で全部納得できるわけでもない。本気で結婚したいなら、異性のいる環境に行くとか、相談所に行くとか、何人にも会うとか、やれることはある。俺は何人に告白したのかと聞かれたら、胸を張って答えられない。結局、結婚したいと言いながら、そこに十分なリソースを割いていないのかもしれない。

親はたまたま時代に合っていた。俺はたまたま合っていない。それだけのことなのだろう。結婚できた先祖が何人続いていても、子孫が全員同じように結婚できるわけではない。兄弟だって同じ遺伝子のコピーではないし、同じ条件で同じ人生になるわけでもない。

それでも、できれば俺も一度くらい、誰かと仲良くなって、なぜか自然に一緒に暮らすようになって、気づいたら結婚していた、みたいなことが起きてほしい。努力でどうにかなる部分と、どうにもならない運の部分があるのはわかっている。

親が結婚できたのに、なぜ俺はできないのか。

答えはたぶん、親が結婚できた時代に生まれたからで、俺は結婚しなくても生きられる時代に生まれたからだ。あとは俺が、この時代に合わせて少し動くか、動かないまま末代になるか。そのどちらかだと思う。