建築士の観点増田です。ブクマコメのうち特に必要と思われる4点にお答えし..

たくさんの反応をいただいてありがとうございます。独り言くらいのつもりで書いたので、ここまで読まれるとは思っていませんでした。私は建築士で、災害後の建物確認や、派遣要請があった場合の準備に関わることがあります。今も正式な派遣要請に備えつつ、いただいたコメントへの返答を書いています。個別の建物の安全性を判断するものではなく、一般的な話として読んでください。

まず、「一度外に出たら、何があっても戻ってはいけない」という意味で書いたつもりではありません。揺れが収まり、火災や津波などの危険がなく、管理者や消防などから戻るよう指示があり、建物の状態も確認できているなら、建物内に滞在を続けることが適切な場合はあります。自宅での在宅避難も同じです。自宅だから無条件に安全ということではありませんが、建物や周囲に明らかな危険がなく、ライフラインが使えるなら、無理に避難所へ移動しないという選択肢はあります。

逆に、避難指示が出ている、周囲で火災や浸水のおそれがある、建物が傾いている、壁や柱に大きな損傷がある、ガラスや外壁が落ちるおそれがある、といった状況なら、戻らないでください。地震の直後は、一見無事に見える建物でも、余震や風雨で状態が変わります。外壁、天井、看板、照明、棚など、建物そのもの以外の落下もあります。揺れが終わったから危険が終わった、とは限りません。

店員の方が客を誘導したあと、自分のスマートフォンや財布、車の鍵、身分証を取りに戻りたくなる気持ちは、当然だと思います。数週間戻れない可能性があるなら、なおさらです。身分証がなければ手続きに困ることもあるし、スマートフォンがなければ家族に連絡できない。寒い時期に上着を持たずに避難した経験がある方の話もあり、私も「取りに戻るな」と簡単に言い切ることの酷さは分かっています。

ただ、それでも安全確認の済んでいない建物への再入館は、原則として避けるべきです。施錠、売上金、貴重品、私物の回収のために戻ると、自分自身が被災する可能性があります。さらに、その人を助けるために救助に入る人まで危険にさらします。これが二次災害、三次災害につながります。会社や上司が、従業員に戻るよう命じるのは論外です。お客様を優先することと、従業員の命を後回しにすることは違います。

「一度避難指示が出れば、当分戻れない覚悟が必要」というのは、脅しではなく、そういう事態が現実にあるという話です。応急危険度判定は、名前の通り応急的な判定で、建物を再使用してよいことを証明する検査とは違います。赤、黄、緑の表示があっても、それだけで全ての危険が分かるわけではありません。判定が地震直後に全ての建物へ行われるとも限りません。専門家の数には限りがあり、被災地域が広ければ、数日から十日以上かかることもあります。

大都市で同時に数千、数万の建物が被災したら、専門家が全部を短時間で見て回ることはできません。安全側に判定すれば、避難先が足りなくなる問題もあります。だからといって、判定を待たずに各自が戻ってよいということにはなりません。建物の用途、構造、受けた揺れ、地盤の状態、周囲の被害によってリスクは変わります。震度の数字だけで安全性を決めることもできません。窓ガラスが降ってくる、道路が隆起する、地割れで移動できない、といった危険もあります。

傾きや亀裂を見れば誰でも判断できるように思えるかもしれませんが、実際には見えない損傷や、構造部材以外の危険もあります。簡易な判定は、訓練を受けた人が一定の基準で短時間に確認するためのものです。ドローンや画像解析、AIによる補助は今後役立つと思いますが、画像だけで全てを決められるわけではありません。最終的には現地の状況を見て、必要なら詳しい調査をすることになります。

大規模地震の直後は、外へ出ること自体が危険な場合もあります。屋内なら、まず落下物から身を守る。机の下に入る、頭を守る、揺れが収まるまで動かない。火元の確認や避難は、その後です。エレベーターは使わない。建物の外へ出るなら、ガラスや外壁が落ちてこない場所を選び、広い場所で点呼を取る。管理者や自治体の指示に従い、危険がない限り、むやみに帰宅を始めない。こういう基本を、知っている人ばかりだと思わない方がいいです。

職場や商業施設では、客を誘導しながら従業員自身も安全を確保しなければなりません。難しいことですが、マニュアルは「お客様優先」の一言だけで終わらせず、従業員が何を持ってどこへ移動するかまで決めておくべきです。鍵、身分証、薬、眼鏡、上着、連絡手段など、個人の生命線になるものを、離れたバックヤードのロッカーにしまう運用が本当に適切なのかは、見直す必要があります。セキュリティや業務上の制約があるのは分かりますが、災害時に持ち出せる仕組みとの両立が必要です。

スマートフォンを持ち込めない職場なら、緊急時に家族へ無事を伝える方法を用意しておく。車の鍵がなくても安全な場所へ移動できるようにする。身分証の代替になる情報を、本人の同意のもとで確認できるようにする。非常用の連絡端末や、避難者名簿の運用を整える。そういう仕組みが必要です。災害は不便を我慢すれば済む問題ではなく、平時のルールそのものが人を危険にすることがあります。

個人としては、財布や身分証、必要な薬、眼鏡などを、可能なら身につけておく。職場に置く場合も、すぐに持ち出せる場所を考える。家族とは、電話がつながらない場合の集合場所や連絡方法を決めておく。自宅についても、家具の転倒防止、水、食料、簡易トイレ、ライト、モバイルバッテリーなどを準備しておく。万全にはできませんが、何もない状態で判断を迫られるよりは、少しだけ選択肢が増えます。

「取りに戻らないと生活できない」という事情がある場合も、自己責任だから勝手に入ればよい、とは思いません。どうしても必要なら、施設管理者や自治体に相談し、専門家による確認、安全な経路、滞在時間、同行者、退避方法を決めるべきです。中で立ち止まらず、危険な場所を通らず、必要なものだけを短時間で回収するという考え方はありますが、これは安全が確認された場合に限る話です。自分だけなら助かる、という賭けに命を預けないでください。

建物は「学校だから安全」「有名な店だから安全」「新しいから絶対安全」というものではありません。耐震性能が高い建物でも、周囲の地盤や非構造部材、設備に被害が出ることがあります。一方で、被害があっても建物全体が危険とは限りません。だからこそ、評判や印象ではなく、その時点の状況と専門的な確認で判断します。

最後に、亡くなられた方や被災された方を、教訓の材料として軽く扱いたいわけではありません。現場では、ほんの少しの判断の違いが大きな結果になります。誰かを責めるためではなく、次に同じ状況になった人が、少しでも安全な判断をできるように書きました。避難の途中で必要なものを持てなかった人も、仕事の責任を背負って迷った人も、間違いなくいます。個人の勇気や自己責任に頼るのではなく、戻らなくて済む制度と、戻らないで済む備えを作るべきです。

どうか、施錠や売上金、貴重品、私物のために、確認の済んでいない建物へ戻らないでください。取りに戻れない前提で、平時から備えてください。命より大切な売上や所有物はありません。自分も派遣要請に備えています。現地へ行くことになれば、できるだけ安全側に立って判断します。皆さんも、まずは自分と周囲の人の命を守ってください。