メモリ不足、っていうから「値上がりして買いづらくなった」くらいの話だと思っている人がいるかもしれないけど、いま起きているのはもう少し字義通りの不足なんだよな。高いから買えないだけじゃなくて、高くてもそもそも物がない。注文しても納期が延びる、見積もりを取るたびに値段が変わる、今まで普通に買えた容量や型番が商品リストから消える。そういう話になっている。よろしくて?
原因として一番大きいのは、やっぱりAI向けの需要だと思う。データセンターがCPUやメモリやストレージを大量に確保して、しかも一般向けより利幅の大きい高単価のものを優先して買っていく。メモリメーカーからしたら、少ない利益で大量に売る汎用品より、何倍も高く売れるものを作るよね、という話ではある。
AIサーバー用のHBMというものを調べて、ようやく「なんでそんなにメモリが足りないのか」が少しわかった。広帯域で動かすためにメモリチップを何層も積んだものが必要になる。AI一台あたりに必要な部材が、これまでのサーバーやPCとは桁違いになる。そりゃ工場の取り合いにもなる。
もちろん各社が何もしていないわけではない。設備投資も増産計画もある。ただ、半導体の工場は「明日からラインを一本増やします」で済むものじゃない。設備を入れて、調整して、品質を確認して、実際に量産できるようになるまで年単位でかかる。その間にもAI側の需要が膨らんでいる。
しかも、汎用品が足りないからといって、すぐに増産設備を作れるかというと、メーカー側にも怖さがある。過去に増産した途端に需要が冷えて、価格が暴落することを何度もやっているからだ。AIの需要が本当に長続きするのか、バブルが弾けないのか、見極めながら投資することになる。大口のAI企業は多少高くても買ってくれるけど、工場や組み込み機器で使う数ギガ程度のメモリには、そこまで払えない。
その結果、一般PCやスマホ、ネットワーク機器にしわ寄せが来る。PCのメモリを増設したいと思って店に行っても、思ったほど在庫がないか、あっても高い。サーバーの更新案件は「サーバーが買えない」ために延び続ける。組み込み機器のチップまで時価みたいな見積もりになる。スマホも値上がりするのに、メモリを節約するためにスペックが微妙になる可能性がある。
昔はCPUが速くなり、メモリも増えれば、ソフトが多少重くても体感で快適になると思っていた。でも実際にはOSもアプリも仮想化もどんどん肥大化して、昔のPCでもできていた作業を、今は何倍ものCPUとメモリで動かしている。それでいて「16GBは最低限」と言われる。富豪的プログラミングのつけを、部品不足の時代に払わされている感じがする。
ソフトウェア側が省メモリ設計に戻るべきなのかもしれない。コード生成AIに富豪的なコードを書かせておいて、ハードウェアが足りませんというのは、さすがにちょっと皮肉だ。AIがリソース最適化に強いなら、まず自分たちが食い尽くしたリソースを減らしてほしい。
とはいえ、USBメモリや型落ち品まで全部同じように上がっているわけではないし、店頭を見れば「そこまででもない」と感じる人がいるのもわかる。新しい世代の製品や、特定の容量、特定の用途向けの部材から先に厳しくなっているのだろう。規格や容量が変わり続けるので、穀物みたいに安い時に買って倉庫に置いておけばいい、というものでもない。古くなれば商品としては腐る。
だから今すぐ全部が宝石みたいな価値になるとか、メモリ泥棒が店に押し入るとか、そういう話ではない。ただ、必要な時に必要な量を普通の価格で買える、という前提が崩れ始めているのは本当だと思う。
AIバブルが弾ければ価格が下がる、という期待もある。逆に、AI側で突然ブレイクスルーが起きて、必要なメモリ量が減る日が来るかもしれない。でも、それを待っている間にも、壊れたPCの交換部品や、更新期限を迎えたサーバーは必要になる。
高いだけなら、買うのを我慢すればいい。売っていないなら、我慢では解決しない。中古PCから部品を抜いて移植する、型落ちを探す、容量を減らす、ソフトを軽くする、クラウドやシンクライアントに寄せる。そういう工夫が必要になる時代が来るのかもしれない。
でも、できればそんな時代は来ないでほしい。せめて普通のPCに必要な分くらいは、普通に買わせてほしい。AIに食わせるメモリはあっても、人間に食わせるメモリはありません、という状態は、どう考えても本末転倒だ。