昔の2ちゃんねるのネタで、「ジュース飲んでんじゃねーよハゲ!!」というのがあった。誰かが自分の問題を解決できずに周囲へ相談して、みんなが真剣に心配したり解決策を考えたりしているのに、本人は途中で自販機にジュースを買いに行く。その所持金の減り方を見た別の人が、即座に「ジュース飲んでんじゃねーよハゲ!!」と突っ込む、というやつだ。
この、異様に早いツッコミが面白かった記憶がある。スレッドを読んでいて、数分後にはもうそのレスが付いていた。自分の深刻な問題なのに、解決は他人に丸投げして、本人だけ呑気にジュースを飲んでいる。そのせいでさらに状況が悪化している。今思えば、わりとよくある人間の姿だったのかもしれない。
それで先日、何かの流れでこのネタを出したら、まったく通じなかった。「何の話?」「知らない」「ジュースを買ったことに対するツッコミ?」という反応ばかり。まあ、通じると思うほうがどうかしているのだが、ちょっと悲しかった。
そもそも、当時だってニュー速界隈のかなり狭いネタだった気がする。2ちゃんねるを見ていた人なら全員知っている、みたいなものではない。昭和生まれの人にも通じないだろうし、ニフティサーブやIRCの時代からネットをやっていた人が知らなくても不思議ではない。元ネタを検索して、初めて知ったり思い出したりする人もいる。
このネタが成立するには、自販機のジュースがだいたい一律で120円くらいで、所持金が減った理由が一瞬でわかることも必要だった。100円玉で買える缶コーヒーのぬくもり、という歌詞がまだ現実の感覚として残っていた時代だ。今は自販機の飲み物が150円、180円、200円以上することも珍しくないし、スマホには電子マネーも入っている。所持金が減ったからといって、ジュースを飲んだとは限らない。
それに、みんなが同じテレビを見て、同じ掲示板を見て、関係ない場所にも同じコピペを貼るような時代ではなくなった。高菜、しょうがないにゃあ、古式若葉、コロッケ、吉野家コピペ。まだ通じるものもあるけれど、どれもいつかは説明が必要になる。今のミームだって、数年後には「何それ、知らない」と言われるのだろう。
こういう言葉は、元ネタだけ残しておいても自然には生き残らない。誰かが定期的に使い直して、別の場面に移植して、少しずつ伝えていかないと消えていく。自分が子供の頃、大人たちが何十年も前の話で盛り上がっているのを見て、よくそんな昔のことで感情を動かせるなと思っていた。でも今ならわかる。十年前はつい最近だし、二十年前にもちゃんと記憶の続きがある。
とはいえ、「ジュース飲んでんじゃねーよハゲ!!」が世間一般で有名なネタだったかというと、たぶん違う。当時でも知らない人のほうが多かったはずだ。通じないのが普通で、悲報でも何でもない。
ただ、あのとき確かに面白かった言葉が、検索しないと見つからなくなっているのを見ると、やっぱり少し寂しい。今度使うときは、せめて元ネタを説明できるようにしておこうと思う。