原作を読んでから映画を観た。結論から言うと、映画としてはよく出来ているし、つまらなかったわけでもない。ただ、原作の好きなところがかなり大胆に削られていたので、「ああ、そこを落とすのか……」という気持ちがずっと残った。
そもそもあの小説の面白さは、主人公が目を覚ましてから状況を一つずつ推理し、実験して、失敗して、また別の方法を試すところにあると思っている。アストロファージが何なのか、なぜ燃料になるのか、どうやって増やすのか。地球での研究や、窒素濃度を少しずつ変えていく地味な試行錯誤も含めて、「科学で問題を解いている」という感覚が気持ちいい。
でも映画では、そこを長々と説明するわけにはいかない。二時間半の中で、記憶を失った主人公、謎の宇宙船、異星人ロッキーとの出会い、地球の危機、二人の友情、最後の決断まで入れなければならない。そう考えると、科学パートを圧縮してロッキーとのバディものに寄せたのは、映画化としてはかなり正しい判断なのだろう。実際、原作未読で観た人たちは普通に楽しんでいたし、子どもと観に行って笑った、泣いたという話もよく分かる。
ロッキーは映像で見られてよかった。あの動きや船内で転げ回る感じは、文章だけでは想像しにくかった部分なので、答え合わせとして楽しい。賢くて頼りになるのに、どこか愛嬌があってかわいい。主人公がロッキーに友情を感じていく流れも、映画ではかなり分かりやすく整理されていたと思う。二人が一緒に作業して、失敗して、笑って、互いのために危険を引き受ける。そこに焦点を絞ったことで、初見の人にも届く作品になったのだろう。
一方で、原作で特に好きだった部分はほとんど「そういうことがあった」と処理されている。アストロファージの量産、南極や砂漠での計画、地球側の研究、進化や品種改良に関わる話など、見たかった場面は多い。長年二酸化炭素を減らす研究をしてきた人が、逆に二酸化炭素を増やすための方法を考える、という皮肉なくだりも、映像で見たかった。科学的には地味でも、原作を読んだ身としてはそこがたまらないのだ。
それから、エヴァの孤独も少し薄く感じた。カラオケの場面は印象に残ったけれど、彼女が何を背負っていて、どんなふうに救われていくのかは、もっと描いてほしかった。ストラットも映画ではだいぶ丸くなっていて、歌う場面が悪いわけではないものの、その時間があれば別の科学パートを見せてくれ、と思ってしまった。これは完全に原作ファンのわがままだが。
逆に、映画オリジナルの演出でよかったところもある。船内のリゾートのような映像が終盤に効いていたし、警備の人たちが主人公の実験に学生ノリで付き合ってくれる場面も好きだった。原作をそのまま再現するのではなく、映像ならではの印象的な場面を足している。原作の説明を全部移せないなら、こういう割り切りは必要だと思う。
原作未読の人には、映画から観るのも全然ありだと思う。説明不足に感じるところはあるだろうが、物語の大筋は追えるし、ロッキーとの関係を中心に観れば楽しめる。逆に原作を先に読んだ人は、抜けた部分を数え始めるときりがない。あれがない、これがない、と考えているうちに映画そのものを見失うので、別作品として観たほうがいい。
個人的には、映画単独だと少し物足りなかった。でも映画化として失敗だったとは思わない。あの情報量を一本に詰め込み、話を破綻させず、ロッキーかわいい、二人の友情は尊い、というところまで持っていったのはすごい。原作の理詰めの気持ちよさを映像で完全に再現するのは難しいし、無理に説明を続ければ、多くの人は途中で疲れてしまう。
だからこそ、Amazonにはディレクターズカットか、六話くらいのドラマシリーズを期待したい。科学実験を大幅に増やして、地球側の動きや、二人が少しずつ異なる環境を理解していく過程を丁寧に描く。窒素濃度をわずかずつ変えていくような、派手ではないけれど原作ファンが喜ぶ場面を入れる。映画がロッキーとの出会いを見せる作品なら、ドラマは二人がそこに至るまでの試行錯誤を見せる作品にしてほしい。
とはいえ、映画を観て原作を読みたくなった人がいるなら、それだけで十分に役目は果たしている。原作を読んで映画を観て、また原作を読み直す。そのたびに、削られた部分と足された部分を比べるのも含めて楽しむ作品なのだと思う。イマイチだった、と言いながら、たぶんもう一度観に行く。ロッキーは賢くてかわいいので。