40歳、年収8京円、資産14垓円でFIREしたけど人生がつまらないので再就職した

40歳。童貞。年収8京円。資産14垓円。

去年、会社を売却してFIREした。

正確には、会社の純利益が振り込まれた瞬間に、銀行の担当者から「この通帳はもう通帳として扱わないでください」と言われた。通帳を本棚だと思ってください、とも言われた。意味はよくわからなかったが、たぶん大金持ちになったということだろう。

資産14垓円というのがどのくらいかは、私にもよくわからない。日本の国家予算を何回買えるのか、地球を何個買えるのか、計算するたびに単位が変わる。とりあえず、コンビニで値札を見て「安い」と思うことは増えた。

家も買った。タワーマンションの最上階である。地上3,800階だ。

エレベーターで最上階のボタンを押すと、到着するまでに季節が二回変わる。春に乗ったのに、降りたら秋だった。途中の階で何度か住人が乗ってきたが、みんな無言だった。隣にいた男性が小声で、

「それ、趣味じゃなくて駐車場経営ですよ」

と言った。

私は趣味の話をしていたつもりだったので、少し傷ついた。

部屋には車が7台ある。北海道旅行に行くための車を決めるのに半年かかった。最終的には戦車にした。北海道では普通に一般道を走れると聞いたからだ。納車された戦車は車庫に入らなかったので、隣の階に置いている。

一輪車も7台あります。

これは売らずに残した。なぜ残したのかは自分でもわからない。資産14垓円の人間が一輪車を7台持っているという事実だけが、私の人生の中で妙に本当らしかった。

生活費はほとんどかからない。食事は専属の料理人に任せている。ある日、料理人から「明日からさつま揚げ担当ね」と言われた。私は料理人を雇っている側なので、少し変だと思ったが、さつま揚げを揚げる仕事は意外と楽しかった。

そばを茹でるより楽しい。天ぷらを揚げるよりも楽しい。油の中で練り物がふくらんでいく様子を見ていると、金額や株価や国家予算のことを忘れられた。

しかし、それ以外にすることがない。

旅行に行っても、ホテルを一棟買ってしまう。映画を見ても、配給会社を買ってしまう。趣味で駐車場を作ろうとしたら、駐車場がある土地を含めて街を買ってしまった。

猫を飼うことにした。寂しさを埋めるため、3,000匹買った。

猫たちは私のことを「給餌装置」と呼んでいる。餌代だけで国家予算くらいかかる。さすがに多すぎたと思い、何匹かに値段をつけて譲ろうとした。

「この子は50億円、この子は100億円」

と言った瞬間、3,000匹全員から無視された。

猫は金額がわかるらしい。

友人に相談したら、「働けばいい」と言われた。私はすでに十分働いたと答えたが、友人は「そういう意味じゃなくて、毎日決まった時間に行って、誰かに必要とされる仕事」と言った。

そこで、練り物屋の求人に応募した。

面接では、資産のことを話さなかった。年収も聞かれたが、「前職では、まあ、それなりに」と答えた。40歳で童貞であることは正直に伝えた。面接官は少し黙ったあと、「明日からさつま揚げ担当ね」と言った。

採用された。

初出勤の日、半透明だった左肩が少し濃くなった。10年ぶりに人と同じ制服を着て、決まった時間に出勤し、決まった量の練り物を揚げる。昼休みには同僚と弁当を食べた。誰も私の資産額を知らない。

「最近、何か趣味あります?」と聞かれたので、

「一輪車を7台持っています」

と答えた。

微妙な空気になった。

帰宅すると、3,000匹の猫が待っていた。正確には、私を待っていたのではなく、給餌の時間を待っていた。それでも、玄関を開けたときに大量の猫がいるのは悪くなかった。

翌朝、またエレベーターに乗った。最上階から地上まで、季節が二回変わった。途中で隣の男性と会った。

「駐車場経営、順調ですか」

と聞かれた。

「いえ、練り物屋です」

と答えたら、男性は初めて少し笑った。

仕事で認められるのは、シンプルに嬉しい。

「今日のさつま揚げ、うまいね」と言われた。それだけで、年収8京円を振り込まれたときより嬉しかった。

私は明日も働く。

猫の餌代のためではない。一輪車を買うためでもない。自分がここにいて、誰かが私の揚げたさつま揚げを食べるためだ。

このエントリーを読んだ人全員に、腹を抱えて笑ってほしい。幸せな気分になってほしい。

そう思って文章を書いていたら、ちゃぴおが「もっとばかばかしくしますか?」と聞いてきた。

私は「お願いします」と答えた。

その直後、左肩が完全に透明になった。