元彼のことを、いまだに許してない。
別れ方がひどかったから。いや、振られたこと自体はもういい。好きな人に好きじゃなくなったと言われるのは悲しいけど、そこは仕方ない。相手の気持ちは相手のものだし、私だって誰かを好きじゃなくなったことはある。
ただ、あの人は別れ話をした翌日から、私の連絡を全部無視した。
電話も出ない。メッセージも既読にならない。共通の友達に聞いても、知らない、もう関わりたくないと言っているらしい、で終わり。家を知っているわけでもないし、実家の住所も知らない。付き合っていた期間はそれなりにあったのに、急に世界から切り取られたみたいだった。
返してほしいものがあった。
ナガノの限定ブランケット。ちいかわのやつ。抽選だか何かで、かなり頑張って手に入れたものだった。かわいいから買ったというより、発売を知って、申し込んで、当たって、届くまでずっと楽しみにしていた。その過程も含めて大事だった。
彼の部屋に泊まるとき、寒いから持っていった。何度か使っているうちに、彼が気に入って、これ置いていけば、と言った。私は、次に来るとき使うからね、と答えた。たぶんその会話をしたことも、彼は覚えていない。
別れ話の日、私は頭が真っ白で、自分の荷物をまとめるだけで精いっぱいだった。服や化粧品や充電器は持って帰った。でもブランケットはソファに置いたままだった。
翌日から連絡がつかなくなって、しばらくしてから、あれを返してほしいと思った。最初は本当にそれだけだった。共通の友達に頼めばいいと思ったけど、誰にどう頼むのかも分からない。彼に伝えてもらって、また無視されたら、今度こそ完全に終わる気がした。
だから何もしないまま、時間だけが過ぎた。
今でもふと、あのブランケットのことを思い出す。彼の部屋で使われているのか、捨てられたのか、誰かにあげたのか。もしかしたら、私が知らない女の人がそれにくるまっているのかもしれない。そう考えると、別れた悲しさとは別の、変な怒りが湧いてくる。
あーー!!ブランケット返せよ!!!!
物の話だと言われればそうだと思う。たかがブランケットだし、買い直せばいい。けれど、物そのものだけじゃない。大切にしていたものを、持ち主に返す価値もないものみたいに扱われたことが嫌なのだと思う。別れるなら、せめて残した荷物くらい清算してほしかった。
彼のことを好きだった私も、彼を信じた私も、いまだに少し恥ずかしい。でも、ブランケットを返さないことと、私を振ったことは別だ。そこを一緒にして、私が未練深いだけだと思われるのは違う。
たぶん新しいブランケットを買っても、上書きにはならない。似たものを見つけるたび、あれはもう戻ってこないんだなと思うだけだ。
だから私は、まだ許してない。彼のことも、あのとき何も言えなかった自分のことも。そして、私のブランケットを返さなかったことを。