クールジャパン機構について、ずっと「アニメ業界が嫌いなんだろう」と思っていた。というより、アニメやマンガやゲームを看板にして予算を取り、実際には現場にほとんど還元されていない、という印象が強かったからだ。アニメーターの待遇改善だとか、日本のコンテンツを海外に売り出すだとか、設立当初はいろいろ聞いた覚えがある。それなのに、現場の人に聞くと恩恵を感じないという。では、いったい何のための機構だったのか、と疑問になる。
ただ、コメントを読んでいて、自分もかなり雑にひとまとめにしていたなと思った。正式名称は海外需要開拓支援機構。アニメ専門のファンドではなく、ファッション、食、観光、百貨店、工場、バイオ素材、メディアなど、日本発の事業が海外で稼ぐために投資する官民ファンドという位置づけらしい。クールジャパンという政策全体も、経産省だけでなく農水省や観光庁などが関わる、もっと広い言葉だ。
つまり「アニメが嫌いだからアニメに金を出さなかった」という単純な話ではない。そもそも最初から対象は多分野で、機構全体の投資額のうち、アニメ・マンガ・ゲームが占める割合は一五%程度だという。金額の大きい案件には、ファッションや美容、海外の百貨店などが並ぶ。アニメを期待していた側からすれば「話が違う」となるが、機構の制度だけ見れば、アニメに全額投入する仕組みではなかった。
とはいえ、だから批判するな、とはならない。予算を取る段階では、アニメやマンガやゲームの海外人気を大きく掲げていたし、国会や報道でも、キャラクターやコンテンツの力で日本を売る、アニメーターの環境を変える、といった説明がされていたはずだ。その期待を利用したのなら、実績や内訳をきちんと説明する責任はある。アニメを看板にしておいて、実際の投資先が別のところに偏っているなら、「勝手に勘違いしたオタクが悪い」と片づけるのは冷たい。
一方で、アニメ側にも、国のお金を受け取るには不安な部分がある。契約書が曖昧だったり、下請け管理がずさんだったり、海外での権利処理が整っていなかったりする。役所が作品を選び、マーケティングを指揮し、流行まで作ろうとするのも無理がある。ブームは会議室で起こせないし、政府の色がつくことで、かえって作り手やファンから敬遠されることもある。
だから本来は、売れそうな作品を官僚が決めるより、海外展開をすでに進めている民間企業や配信サービスに任せればいい。国がやるなら、海外での知財保護、契約や税制の整備、翻訳や情報提供、若手の育成など、個々の会社だけでは対応しにくい土台の部分だろう。現場に直接届く支援なら、少なくとも「どこに消えたのか分からない」ということにはなりにくい。
結局、問題はアニメが好きか嫌いかではなく、何をする機構なのかが最初から曖昧だったことだと思う。補助金ではなく回収前提の投資会社なのか、産業政策のための基金なのか、日本文化の広報機関なのか。目的が混ざったまま、政治家や役所や大企業や広告会社がそれぞれ都合よく利用できる状態になっていた。その結果、成功例があったとしても、大きな失敗や赤字の印象だけが残る。
「クールジャパン=アニメ」と思い込むのも違うし、「アニメを使って予算を取っただけ」と決めつけるのも乱暴。ただ、アニメ業界が看板にされたのに、現場の待遇も仕組みも大して変わらなかった、という不満には理由がある。嫌いというより、無知で、無関心で、責任を取りたくない。そのため、分かったようなことを言う人に任せ、予算を使うこと自体が目的になった。そんなふうに見えてしまうのが、いちばんまずかったのだと思う。
もう無くしていいのでは、という気持ちもある。でも、機構を終わらせるだけでは、別の名前で同じことが始まる。案件ごとの収支、採択理由、関係者、失敗の原因を公開して検証すること。成功したものも失敗したものも、誰がどの判断をしたのかを残すこと。クールという名前に酔う前に、まず普通の投資と政策評価をやってほしい。アニメでも和食でもファッションでも、作る人が置き去りなら、何を掲げてもただの看板でしかない。